肩の動きではスイング幅を大きく出来ない

　スイング幅を長くするためにはどうしたらよいのでしょう。
「(バックスイング時に)きき腕の肘が耳のうしろまでくるようにする。肩の関節が硬い選手の場合は重い鉄アレイのようなもので振り上げ運動をする。きき腕の鉄アレイを大きく後に振り上げると惰性で自然に肘が耳の後方に引けるようになる。」
というアドバイスは正しいでしょうか？

本当に耳の後まで肘が引けますか？
   写真Aのようにボールの方に真っ直ぐ向いてスイングする打ち方を想定します。この状態で挙上した肩をできるだけ後方に動かしてバックスイングをしてみましょう。鏡を見ながら肩の挙上を確認してみてください。実際にやってみると、腕が耳の横に来たところでピタリと腕の動きが止まってしまい、「きき腕の肘が耳のうしろまでくる」ことはないと思います。

肩の動く範囲…伸展(後方挙上)は50度、屈曲(前方挙上)は180度が正常です。
   「きき腕の肘が耳のうしろまで」こなかった人も「自分はバレーボールに向いていないのでは」というような悲観する必要は全くありません。人間の正常の腕の挙上角度は腕が床を指す角度の基準を0度とすれば180度までです。多少、動きが大きい人もいますが、それでもせいぜい3〜5度のプラスしかありません。この挙上角度の制限は骨格や筋肉などの肩の構造上、どうしても起きてくる問題です。いわば人間に生れた宿命と言っても良いでしょう。角度が3〜5度プラスされても「きき腕の肘が耳のうしろまでくる」ことは普通まず不可能です。

トレーニングで肩の動く範囲は変えられるでしょうか？
   それではトレーニングをしたら肩の動く範囲は変えられるでしょうか？
            「きき腕の鉄アレイを大きく後に振り上げると惰性で自然に肘が耳の後方に引けるようになる。」
鉄アレイを持ち、反動をつけて動かせば、肩の構造が持つ弾性により一瞬スイング幅が長くなることはあると思います。しかし、それは鉄アレイの重さを利用した一過性の現象です。残念ながら、スパイクを打つ時には重りを持つことはないのでこれは出来ない相談です。
他にもチューブを使うトレーニングやテニスのラケットを使うトレーニング、ボールを高い所につるして打つ方法などが取り上げられていますが、これは肩の動く範囲を大きくすることとは直接的には関係がありません。

スイング幅を長くする

正常の肩の動きの範囲のスイング幅
   正常な肩の前方挙上角は180度ですので、この範囲でスイングした場合のスイング幅は短いものです。大きな手の速度を得るためにこれまで考えたようにスイング幅を長くすることが必要ですが、肩の動きだけでスイング幅を長くすることには限界があります。そこで実際のスパイクフォームでは肩の動き以外の体の動きを取り入れてスイング幅を長くしなければなりません。

腰の反りを使うスイング
　 肩の動きに加えて腰の反り（後屈）を使うとスイング幅は長くなります。この二つ動きで打つフォームがいわゆる「ストレートアームスイング」と呼ばれるものです。胸椎は中に心臓や肺があり、容積が変化しない構造となっているので、反りは脊椎の中でも主に腰で起こります。腰もある程度以上に反ると肩の動きと同様に構造的にストップがかかるようになっているので、無制限に大きくすることは出来ません。また、無理に大きな腰の反りを使えば腰痛の原因にもなります。


体幹の回旋を使う
　 体幹を回旋させることでスイング幅は長くなります。これは体の反りに比べてかなりの長さとなります。回旋は脊椎においては腰椎よりも胸椎が中心となる動きのため、回旋と腰の反りは同時に行うことが出来ます。ボウ＆アロウアームスイングまたはサーキュラーアームスイングは腰の反りに加えてこの体幹の回旋を使いスイング幅を長くしたスイングです。


体幹の側屈を使う
　 さらに体幹は側屈という動きもあります。反りと回旋に側屈の動きを入れるとスイング幅はさらに長くなります。脊椎動物において側屈は脊椎のもっとも基本的な動きですので、胸椎と腰椎の両者で可能です。ただし、ストレートアームスイングのように真っ直ぐ向くスパイクスイングの場合には側屈を取り入れることが出来ません。バックスイングの分類の中でもサーキュラーアームスイングがもっとも側屈を取り入れやすいスイングです。 
  体幹の動きを入れることでスイング幅が長くなっていることがわかります。スパイクフォームの違い（分類）は体幹の使い方の違いとして考えられますが、今回のようにいかにスイング幅を長くしているのかということに着目してみても面白いと思います。