もう一つのスイング
写真Aと写真Bの合成写真(写真C)
写真Aと写真Bの二枚の写真を合成してもう一枚の写真Cを作ってみました。一枚目の写真の1コマから5コマ目と二枚目の写真の6コマから8コマ目をつなぎ合わせたものです。
ここであらためて写真Aと合成してできた写真Cを見比べてみましょう。合成写真ですので写真Cのフォームは当然、肘が曲がり、打点が低いスイングとなっています。しかし、写真Cには写真Aで見られなかった別の動きがあります。それは肩の動きです。写真Aでは肩の動きが小さく、主に「肘の動き＋手首の動き」でボールを打っているのに対して、写真Cでは「肩の動き＋肘の動き＋手首の動き」でボールを打っています。
肩の動き(①)に比べて、肘の動き(②)の大きい「手打ち」スイング
肩の動き(①)に比べて、肘の動き(②)が大きい写真Aのスイングはいわゆる「手打ち」スイングと呼ばれるものです。スポーツで肘と手首の動きによる「手打ち」スイングは強さよりもコントロールを重視するダーツ競技(ダーツの場合は「手投げ」でしょうか？)などにみられます。「手打ち」スイングで強いボールが打てるのはよほど腕っぷしが強い(＝肘と手首の筋肉が強い)選手の場合だけで、筋力の弱い女性の選手などでは弱いボールしか打てません。確かに打点は高いのですが、「手打ち」となっている写真Aのスイングを良いフォームと呼ぶには問題があります。
スパイクのパワー＝スイングする手の先端速度
ボールヒット…手とボールとの衝突
ここで今一度スパイクスイングというものについて考えてみましょう。バレーボールのスパイクとは最終的には速度の大きい手をボールに衝突させてボールに大きな勢いを与えて相手コートに打ち込むことです。
撃力…衝突で働く、鋭いピークを持つ瞬間的に働く力です。
ボールヒットで手とボールが接触している時間は非常に短い間です。このように瞬間的に働く、衝突した物に勢いを与える力を「撃力」と呼びます。撃力は左のグラフでわかるように鋭いピークを持っています。撃力の特徴は衝突する瞬間の速度に依存することで、衝突時の速度が大きければ大きいほどボールの勢いも大きくなります。身近な撃力の例は釘を打つ金槌の力です。金槌は握りの部分を持ち、振ることで先端の金属の打撃部の速度を大きくして釘に当てます。
ゴルフスイング
上級者のスイングではなめらかに加速され、最もスイング速度が大きくなった時にボールにインパクトします。
バレーボールのスパイクだけでなく「撃力」使うスポーツは色々とあります。野球やゴルフもボールにバッドやクラブをぶつける時の撃力でボールを飛ばします。バットやクラブのヘッドスピードが高い選手ほどボールを遠くに飛ばせます。右は実際に測定した一流ゴルファーのスイングのグラフですが、一流ゴルファーではクラブがなめらかな右上がりの加速をして、インパクトの瞬間にヘッド速度が最も高くなっていることがわかります。野球やゴルフの指導者や解説者がよくプレーヤーに「バット（クラブ）のヘッドスピードを上げろ」と口にするのはこのためです。
スイング幅…スイングの加速レーン
ボールヒット時の手の撃力を大きくするために衝突時の手の大きな先端速度を得るために、腕を振ることがスパイクスイングです。一般に物を加速して大きな速度に到達するためには、その物を十分な距離だけ動かさなくてはなりません。
関西空港の滑走路。ジェット旅客機が離陸するためは4000メートル級の長い滑走路が必要です。
高速道路の加速レーン。料金所から本線の間にある加速専用の走行路です。
飛行機が離陸するときには滑走路を滑走しますが、これは飛行機が飛び立つための揚力を発生させるためです。揚力は速度の二乗に比例する力で短い距離を滑走するだけでは離陸に必要な速度にまで到達できません。このため、飛行場の建設は長い滑走路が取れる広い敷地が必要です。また、高速道路では料金所から本線に合流するために本線とは別に「加速レーン」が設けられています。本線に合流する前に車は必ず「加速レーン」を走り、車の流れに乗れる速度に到達してから合流します。「加速レーン」がなかったり、短ければ本線に遅い車が合流することになり、高速道路は渋滞や事故が次々に発生してしまうでしょう。
肩の肘のスイング幅
スパイクスイングで滑走路や加速レーンに相当するのが、腕のスイングする幅です。スイングする幅が長ければ手は十分に加速できますが、短ければ大きなスイングスピードには到達しません。強いスパイクを打つためには手の速度を上げなければなりませんが、そのためにはスイング幅を大きくする必要があります。腕のスイング幅には肩のスイング幅と肘のスイング幅が考えられますが、スイングフォームが違っても肘のスイング幅はほぼ同じです。スイング幅を大きくすること、特に肩のスイング幅を大きくすることがスパイクスイング全体を考えて重要事項の一つと言えます。